【第3回】〝地主の参謀〟に聞く! 次世代へ資産承継するために必要なこと

資産を守っていく上で大切な考え方や知識などをガイドした注目の書籍『地主の参謀』(エベレスト出版)。その著者であり、地主専門の資産防衛コンサルタントとしても活躍する松本隆宏さんに資産形成・運用・相続のポイントを指南していただきました。

第3回は、世代へ「資産を承継する立場」にフォーカス。次世代へ、さらにその次の世代へ資産を承継していくために考えるべきことを探ってみましょう。

地主の家系に生まれ、長男として歩んできた松本さん。親世代、その前の世代に思いをはせることからバトンをつなぐ立場を強く意識したといいます。

家系図の作成で芽生えた“承継”の自覚

松本さんが40歳を迎えたある夏。息子さんを連れて実家の墓参りに出かけた際、ある(祖先の)お墓が目に留まりました。苔むした墓石には、かすかに「天保」という文字が刻まれているのがわかりました。

松本 天保といえば江戸時代の年号、ということはわかりますよね。一体誰のお墓なんだろう? 当然ながら、親や親族の誰に聞いても、答えられる人はいませんでした。つまり、今生きている人の記憶には誰も残っていない人物ということです。

しかし、ここに眠っている人は天保の時代を必死に生き、子孫と財産を今の松本家に残してくれた人物にほかなりません。ただ手を合わせるだけではなく、何かこの方に報いる方法はないものか……。そう考え続けた私は、ある手段を思いつきました。

ーー松本さんが思いついたのは「家系図を作る」ことでした。戸籍をたどることで見える自分のルーツ。完成した家系図をひもといた時、自分の7代前までわかったファミリーツリーに、思わず息をのんだそうです。

「家系図を作成したことで、自分を形作るルーツを知ることができました」と松本さん。現状分析書と同様に「見える化」することが重要だ

松本 天保期に生きた、あのご先祖の名前もわかりました。そして、何本にも枝分かれし、広がっていくツリーに支えられて私がいるという事実に、何とも言えない感動を覚えたのです。

家系を残すために養子をとり、女性がお嫁に出て家系が広がっていったこともわかりました。単なる記録ではありますが、そこから伝わってくるのは家系を残そうという、当時の家長や家族達の切なる思いです。

先祖が守り、つなげてきたバトン。それは資産という目に見える形としても残りますが、「なんとかして家を残したい、つなげたい」という想いがあり、私に、そして息子につながっているということを感じたのです。

ーー家系図を作るために欠かせない戸籍の保存期間は150年。一定期間を過ぎると廃棄されてしまうものです。松本さんは「今調べなければ、消えてしまう」という想いで家系図を作成。それは家族の結束も深めました。そして「次代にバトンをつないでいく」という想いもさらに強めたのです。

不動産を収益化するために

資産を継承する世代としての自覚が芽ばえたら、次は安心・安全に資産を渡すための基盤づくりが欠かせません。松本さんが提唱するのは、手持ち物件の「収益不動産化」です。魅力的な物件を次世代に渡すために、どんなことを考えておくべきなのでしょうか。

松本 この特集の第2回で、「地主は収入と支出を見える化することが先決だ」と説きました。そこでは、お手持ちの“物件の見える化”も不可欠です。

収入を生み、建物があるものは「賃貸物件」

収入は生まないが、建物があるものは「自宅」

収入を生むが、建物がないものは「駐車場」

収入を生まず、建物もないものは「農場」など

まずは、所有物件をこのような4つに分けて、収益をもたらす不動産は何なのか、その物件はどんな状態で、これからどのように次代に受け継いでいけばよいのかを考えていきましょう。

承継する次代目線で考えた不動産の管理

建物は必ず経年劣化し、いつか朽ち果てる時が訪れます。何も手を入れないまま、古びた物件を子どもに受け継ぐ先に見えるのは、困惑して途方に暮れる子どもの姿ではないでしょうか。

「自分の世代だけ経営すればいいというわけではなく、その先こそ大切にすべきだ」と真剣な眼差しで語る

松本 築30~40年のコンクリートマンションを受け継ぐ。修繕の問題もありますし、入居者が入るかどうか、上昇する空室率にも頭を悩ませることでしょう。これは不動産のプロフェッショナルでも荷が重い承継です。私はこのようなケースを数多く見てきました。

親世代が「建物の将来を想像し、いつどんな手を打つか決めておく」ことが親世代の責務だと考えています。不動産は実物として目に入りますから、今後、直面するであろう事態が比較的予想しやすいものです。しかし、その問題に直面するまでは対策が後回しになり、結果的に何も講じず継承されるケースも多いのです。

ーー賃貸物件を売却するのか? それとも建て替えるのか? 建て替えるならどのタイミングがベストなのか? 現状を見える化することで、対策とスケジュールは自然に見えてくる、と松本さんはアドバイスします。

松本 売却するのか、それとも新しいアパート、マンションを建てて子どもに相続させるのか。考えるべきは、受け継ぐ子どもの視点に立った長期的な思考です。ボロボロになった物件を受け継ぐのか、新しくて入居者が引きも切らず、管理もしやすい物件を受け継ぐのか。相続する側として、どちらがうれしいかは自明ではないでしょうか。

穏やかながらも熱のこもった口調で資産防衛の大切さを語ってくれた松本さん。その笑顔は未来への希望に満ちていた

土地の実状に合った資産の運用、キャッシュフローの管理、建設業者や金融機関との交渉など、不動産には調整すべき課題があります。第2回で提唱したように、まずは「○○家の現在地」を把握することこそ、次世代の明るい未来への第一歩になるのです。

不動産投資に関するマニュアル本、ノウハウは世の中にあふれていますが、そのほとんどは個人の不動産投資家を対象にしたもの。地主目線で物件を考えていくアプローチはほとんど紹介されてきていません。

親側は「どのように受け継がせたいのか」を考え、子ども側は「どのように受け継ぎたいのか」を考え、すり合わせていくこと。長期的な視点に立ったビジョン、そして親子間のコミュニケーションが安心・安全な相続のキーポイントになるのです。

取材協力=松本隆宏(ライフマネジメント株式会社)

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