資産を守っていく上で大切な考え方や知識などをガイドした注目の書籍『地主の参謀』(エベレスト出版)。その著者であり、地主専門の資産防衛コンサルタントとしても活躍する松本隆宏さんに資産形成・運用・相続のポイントを指南していただきました。
第1回は、各種手続きに欠かせない弁護士や司法書士、税理士といった「士業」と呼ばれる職業の方との関わり方。資産を安心して次代に承継するために、どんなプロフェッショナルに任せるべきなのか? 地主の方や富裕層の相続問題に豊富な実績を持つ松本さんがナビゲートします。
最大の敵であり、最大の味方である税理士の存在
2015年(平成27年)に税制が改正され、相続税の課税対象になる人は大幅に増えました。近年、相続税の課税対象になった申告件数を見ると、被相続人数は約11万2千人(平成29年度)。つまり、日本全国で約11万件もの相続申告があることになります。
しかし、一般的な税理士事務所では年間3~4件ほどの相続申告の対応にとどまっており、相続税への対応を専門に掲げる事務所はまだまだ希少な存在です。
それは、相続はスポットで発生し、顧問料を積み上げていくモデルに比べて継続性に欠けるためだといわれています。これは弁護士、司法書士といった相続に関する手続きに欠かせない他の「士業」も同じ。相続について不安、悩みを抱える方に安心を届ける士業の受け皿はまだまだ少ないのが現実です。
地主専門の資産防衛コンサルタントとしても活躍する松本さんは「最大の敵は税理士であり、最大の味方も税理士」だと言います。
松本 税理士にとって、相続税法は必須科目ではありません。多くの税理士は法人決算や確定申告に繁忙を極めていますから、相続関連のプライオリティ(優先順位)が低くなりがち。これは当然のことでしょう。もちろん、近年では「相続税専門」を掲げる税理士事務所も増えてきてはいます。しかし、考えてみてください。税理士がうたう実績はあくまで「申告実績」です。(つまり、相続税専門の税理士といっても、相続税を節税するためのコンサルティングではなく、国税庁に提出する申告書、各種手続きの専門なのです。)
ーー相続や不動産の知識が決して十分ではない税理士に相談し、手続きを依頼すると、相続税額が高く算出され、過払いになってしまう可能性もあります。松本さんも、地主をサポートする上で、さまざまなケースを目の当たりにしてきました。
松本 ある地主の方と話していた時のことです。相続に話が及ぶと、「親から土地を受け継いだら、数億円の相続税を支払った」と言うのです。
私は疑問を感じ、チームの信頼できるパートナーに検証してもらったところ、やはり明らかな過払いでした。このようなケースは決して少なくありません。数百万円、時には数千万円の還付金を請求できた事例もあります。
しかし、過払いならまだいいんです。相続税の申告ミスにより、修正申告が発生し、800万円を超える追加納税を迫られたご家庭もありました。相続税を数千万円も納めた後の追加納税です。手元資金がなくてどうにもできず、自宅を担保にして融資を受け、何とか支払うことになったそうです。過払いで払った金額は戻ってきますが、追加納税のために売った土地は還ってはきません。士業の方々に全幅の信頼を置いていると、時にはこんなケースもなくはないのです。
地主はプロに負けない知識をつけるべきか?
相続税のプロフェッショナルである税理士は少ない。そして、申告に関して何らかのミスがあった場合、相続税の過払い、あるいは追加納税を迫られることもある――こんな現実が見えてきました。
では、資産防衛のためには何をしたらいいのでしょうか。地主も相続に関して勉強を重ね、プロに負けない知識を持つべきなのでしょうか?
松本 いえ、私は地主の皆さんには「プロフェッショナルに一任してください」と常々アドバイスをさせていただいてきました。確かに、世の中には相続に関する指南書があふれています。そこには土地の評価をどうするか、相続税をいかに下げるか、テクニック、ノウハウが詰まっています。しかし、そこでディテールの知識を積み重ねていくよりは、安心できるプロフェッショナルに任せたほうがいいのではないでしょうか。
例えば、お寿司屋さんに入り、食べ手としてお寿司を満喫することを考えてみてください。シャリの握り方や温度、酢のきかせ方などに細かい知識を持っていたら、おいしいお寿司が食べられるでしょうか? それよりも、安心して任せられる大将を知っていたら、それだけで十分なはずです。地主の皆さんは、考え方や気づきを得て、適切な決断をするだけでいい。私はそう考えています。
ーー税理士、司法書士、弁護士、不動産鑑定士といった士業は厳密な試験をクリアし、国家資格を取得した手続きや不動産のプロフェッショナル。士業は資格的な知識もさることながら「過去の実績、記憶をもとに仕事をするプロフェッショナルだ」というのが松本さんの持論です。
松本 ビルを持っている人が、所得税、住民税として年間で1,000万円ほど納めている現状があったとしましょう。これを個人の財産ではなく、法人の財産にするという選択肢もあります。この場合、法人の方が税率は低いため、年間で300万円程度の諸税に抑えられるという可能性も出てきます。仮にそれが10年間続いた場合、その額は3,000万円という額になるのです。将来の備えにも、新たな資産運用にも活用できるような大きな額です。
一般的な士業が過去の実績、記憶をもとに仕事をするプロフェッショナルならば、私の仕事は、コンサルタントとして、地主さんたちの未来をデザインしていくという使命があります。過去や実績だけを見るか、未来を見据えてデザインしていくか。長期的に見た場合、資産には大きな違いが表れてくることでしょう。
賃貸経営を成功に導くワンストップ体制
松本さんは地主専門のコンサルタントとして、多くの地主の方とコンタクトし、悩みをヒアリングしてきました。そこで、具体的な手続きだけではなく、土地や建物、借り入れ、税金、保険……相続や事業承継に関する悩みが多岐にわたることを感じ取ったといいます。
そこで、松本さんが提唱し、サービスとして結実させたのが税理士、司法書士、不動産鑑定士、弁護士といった士業を必要に応じてプロジェクトチーム化し、不動産会社、建築会社、金融機関と連携をとっていくワンストップの体制づくり。チームを俯瞰して見られるコンサルタントを中心に置き、クライアントである地主さんをリードしながら相続プロジェクトを進めていくシステムを回し、多くの成功を収めてきました。
松本 ワンストップの体制は、資産を承継する親と相続する子、その一族の関係性の中に円滑な進行のプロフェッショナルが入るという座組みです。相続を専門にするだけではない、同じ方向を向いて一緒に歩いてくれるプロフェッショナル集団。節税効果を考え、利益を出す士業のプロフェッショナルをまとめ、適した選択肢を用意します。地主さんには「あとは決断するだけですから」と強調しています。
ーー税制や不動産評価、そして金融機関との付き合い、相続に関する各種手続き……。相続というシーンで、やるべきこと、なすべきことは複数の領域にまたがります。地主さん本人が税制の知識、土地評価のスキルを磨いたり、または税理士など一つの士業に重きを置きすぎたりするよりも、安心できる参謀を中心に置き、各種士業のプロフェッショナルな知識、ノウハウを存分に活用する。それが、現代のスマートな地主のあり方と言えるでしょう。
取材協力=松本隆宏(ライフマネジメント株式会社)