
家賃の決め方一つで、賃貸経営の収益は大きく変わります。本記事では、不動産鑑定の現場でも使われる「賃貸事例比較法・収益分析法・積算法」の3つの算出手法と、「相場・差別化・トレンド」の3軸による査定調整を解説します。
また、ポータルサイトを使った競合調査から坪単価の計算、築年数による下落補正、設備のプラス・マイナス査定まで、適正家賃を自分で算出するための実践的な手順をステップごとに紹介します。
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家賃の決め方で基本となる3つの手法
家賃を適正に設定するには、不動産鑑定の現場でも活用されている3つの基本的な算出手法を知っておくことが大切です。
| 手法 | 着目する視点 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 賃貸事例比較法 | 市場性 | 一般的な居住用物件の初期設定 |
| 収益分析法 | 収益性 | 事業用物件などで収益性から賃料を検討したいとき |
| 積算法 | 費用性(コスト) | 事例が少ない物件や金融機関評価の確認 |
各手法は着目する視点が異なるため、物件の特性に合わせて組み合わせると精度が高まります。
賃貸事例比較法
賃貸事例比較法とは、周辺の類似物件の成約賃料(実際に契約が結ばれた家賃)を集め、自分の物件と比較しながら家賃を算出する手法です。3つの手法の中でもっとも広く使われており、管理会社や仲介会社が査定時に主に活用しています。
比較するポイントは「立地・築年数・専有面積・設備」の4項目です。これらの条件に近い物件を5~10件ほど洗い出し、差異を加味した上で家賃の水準を絞り込みます。
都市部ではデータが豊富なため精度が高くなりますが、郊外や地方では成約事例が少なく、精度が落ちやすい点には注意が必要です。一般的な居住用物件の家賃設定では、まずこの手法から着手するのが基本になります。
収益分析法
収益分析法とは、対象不動産が生み出す収益を分析し、そこから適正賃料を求める手法です。事業活動から得られる総収益や純収益を踏まえて賃料水準を検討するため、店舗や事務所などの事業用不動産で用いられることがあります。
例えば、テナントが見込める売上高や必要経費、適正な利益水準などを分析し、無理のない賃料帯を算定します。居住用物件では事業収支を直接把握しにくいため、賃貸事例比較法のほうが重視されるのが一般的です。
積算法
積算法とは、土地と建物それぞれの価値を積み上げた「基礎価格」に、期待利回りと必要諸経費を加えて家賃を求める手法です。計算式は「基礎価格×期待利回り+必要諸経費」となります。
オーナー側のコストをベースとするアプローチであり、金融機関が担保評価に使うことでも知られています。
一方、市場の需給バランスが反映されにくいため、単独での家賃設定には向きません。土地価格が高い都市部などでは、積算から導かれる家賃が市場相場を上回るケースもあるため、あくまでほかの手法と組み合わせて参照しましょう。
家賃の決め方で必要な3つの軸

適正な家賃を設定するには「相場・差別化・トレンド」の3つの軸を組み合わせることが重要です。どれか一つが欠けると、空室の増加や収益低下につながりやすくなります。
周辺相場を正確に把握する
家賃設定の出発点は、周辺相場の正確な把握です。不動産ポータルサイトで「募集中の家賃」は確認できますが、それは「希望価格」であり、実際に成約した価格とは異なる場合があります。
より精度を上げるには、管理会社や仲介会社に「成約賃料(実際に契約が成立した家賃)」を確認することが大切です。条件をそろえた比較のために、築年数・最寄り駅からの徒歩分数・専有面積・間取りの4項目を軸にして、類似物件を5~10件ほど抽出しましょう。
競合と設備で差別化を図る
周辺相場を把握した上で、次に考えるのが競合物件との差別化です。同じ相場帯の物件より家賃を高く設定するには、入居者が価値を感じる設備を備えることが有効です。
全国賃貸住宅新聞社が2025年に発表した「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても決まる」ランキングでは、「高速インターネット(1Gbps以上)無料」が1位を獲得しました。2位には「エントランスのオートロック」、3位に「インターネット無料」が続きます(単身者向け)。
こうした設備の有無が、同じ家賃でも入居者の選択を左右します。設備の現状を棚卸しして「プラス査定」「マイナス査定」を整理し、差別化を図りましょう。
最新の入居者トレンドを知る
入居者のニーズは時代とともに変化します。足元ではテレワークは急拡大局面を過ぎ、高水準で定着しており、国土交通省の令和6年度調査でも、雇用型テレワーカーの割合は全国24.6%、首都圏でも約4割水準を維持しています。
こうした背景から、単なるネット無料にとどまらず、高速インターネット(1Gbps以上)など通信品質まで重視する傾向が強まっています。ターゲット層に合わせたトレンドの読み込みも重要です。例えば、単身の20~30代であれば宅配ボックスや独立洗面台の優先度が高く、ファミリー層であればインターネット無料や追いだき機能が選ばれやすい傾向があります。
「今の入居者が何を求めているか」を定期的に確認し、中長期的な空室リスクの軽減につなげましょう。
適正な家賃を自ら算出する手順

管理会社に任せるだけでなく、オーナー自身が適正家賃を計算できると、査定のチェックや値下げ交渉の判断がしやすくなります。ポータルサイトの調査から坪単価の計算、築年数の補正まで、順を追って進めましょう。
ポータルサイトで競合を調査する
まずは複数のポータルサイトで、自分の物件に条件が近い競合物件を10件程度リストアップします。絞り込む条件は「最寄り駅からの徒歩分数(±3分以内)・専有面積(±5㎡以内)・間取り・構造」の4点です。
ポータルサイトで表示される家賃はあくまで「募集中の希望価格」であり、実際の成約家賃とは異なります。募集から長期間掲載されている物件は相場より高い可能性があるため、掲載期間にも注目しましょう。
より精度を上げたい場合は、仲介会社に「近隣の直近成約事例」を確認するのが有効です。成約事例は募集価格より5~10%程度低いケースも珍しくありません。
築年数による下落率を考慮する
ベース家賃が出たら、築年数に応じた下落分を補正します。築0~25年の平均は年率約1%で、「築10年で約10%・築20年で約20%下落」と考え、収支計画に反映させましょう。
ただし、地方や郊外では下落率が大きくなるケースもあります。あくまで目安として使い、最終的な家賃は賃貸事例比較法と組み合わせて判断しましょう。
設備と物件条件による家賃の調整
ベース家賃を算出したら、自分の物件の設備や条件に応じて家賃を上下に調整します。「何がプラスで何がマイナスか」を整理することで、相場に根拠を持たせた家賃設定が可能です。
プラス査定になる人気の設備
設備によっては、周辺相場より高い家賃でも入居が決まりやすくなります。全国賃貸住宅新聞社の2025年ランキングでは、単身者向けは『高速インターネット(1Gbps以上)無料』、ファミリー向けは『エントランスのオートロック』が1位となっており、防犯性と通信品質の両方が重視されています。
| 設備 | 特徴 |
|---|---|
| 高速インターネット(1Gbps以上)無料 | 単身者向け1位・ファミリー向け2位 |
| エントランスのオートロック | 単身者向け2位・ファミリー向け1位 |
| ンターネット無料 | 単身者向け3位・ファミリー向け3位 |
| 宅配ボックス | 単身者向け4位・ファミリー向け4位 |
インターネット無料設備は初期導入コストがかかりますが、競合物件との差別化と家賃維持の両面で効果的な設備投資といえます。
マイナス査定になる条件と対策
プラス査定と同様に、条件によっては相場より家賃を下げなければ入居が決まりにくいケースもあります。主なマイナス査定の要因は「駅徒歩10分超、日当たり不良、1階、バス・洗面・トイレ一体(3点ユニット)」などです。
これらの条件を家賃に反映させる際は、ただ値下げするだけでなく「フリーレント(一定期間の家賃を無料にする制度)」の活用も検討しましょう。
家賃そのものを下げると、将来の資産評価(売却時の査定額)に悪影響を及ぼす可能性があるほか、既存入居者から同額への値下げを求められるリスクも生じます。
フリーレントであれば月額家賃の水準は維持したまま、入居者の初期費用負担を減らせるため、物件の資産価値を守りながら空室対策ができます。一般的なフリーレント期間は1~2カ月で、引越し(移動)が少ない閑散期(6~8月・10~12月)に設定するのが効果的です。
家賃を決める際の注意点とコツ

家賃の金額だけに目を向けていると、管理費・初期費用・募集時期との組み合わせで機会損失が生じることがあります。細部の設定まで意識し、空室リスクを抑えましょう。
管理費・共益費とのバランス
家賃と管理費(共益費)の合計額が、入居者にとっての実質的な負担です。家賃を低く見せるために管理費を高く設定する手法もありますが、ポータルサイトの検索では「家賃+管理費」の合算で比較する入居者が多く、結果として他物件との比較で不利となり、選ばれにくくなるケースもあります。
管理費は共用部の清掃・照明など実費に見合った額に設定し、家賃との合計で相場感を確認しましょう。
敷金・礼金で初期費用を調整する
敷金・礼金を下げると入居ハードルが下がり、空室解消のスピードが上がります。一方、礼金ゼロにすると初期費用が抑えられる分、入居者が転居しやすくなり、短期退去のリスクにつながりやすいという側面も指摘されています。そのため、敷金は原状回復費の担保として1カ月分を確保しつつ、礼金をゼロにして入居しやすくするバランスが、近年の主流です。
募集時期による需要の変化
賃貸市場には繁閑があり、一般的に1~3月・9月前後が繁忙期です。この時期は需要が高いため、強気の家賃設定でも入居が決まりやすくなります。
逆に4~8月・10~12月の閑散期は反応が鈍くなるため、前述のフリーレントや初期費用の見直しで対応するのが効果的です。家賃そのものを下げる前に、時期に応じた条件の調整を先に検討しましょう。
不動産会社と適正家賃を決める方法
自分で計算した家賃は、最終的に不動産会社の査定と照らし合わせて確定させましょう。複数社の意見を比べることで、より精度の高い設定に近づけられます。
複数社に家賃査定を依頼する
家賃査定は無料で行う会社がほとんどです。1社だけに依頼すると、その会社の得意エリアや方針に偏った金額が提示される可能性があります。
最低でも2~3社に依頼し、査定額を比較しましょう。数千円以上の開きがある場合は、その理由を各社に確認することが大切です。
提示された査定根拠を確認する
査定額だけを鵜呑みにせず、「なぜその金額か」の根拠を確認することが重要です。根拠として示されるのは、近隣の成約事例・物件の設備評価・エリアの空室率などです。
これらの説明を丁寧に行う会社は、賃貸経営のパートナーとして信頼できる可能性が高いといえます。反対に、根拠があいまいなまま高い家賃だけを提示する会社は、管理受託を優先し、後から値下げを勧めるケースもあるため注意が必要です。
家賃の決め方で悩んだら専門家に相談を
適正な家賃の設定には、相場の把握・設備の評価・築年数の補正・募集時期の判断など、多くの要素を組み合わせる必要があります。自分で算出した数字を土台にしつつ、最終的には不動産のプロと連携して決めることが、収益の最大化につながります。
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< この記事の監修者 >

斎藤 岳志
FPオフィス ケセラセラ横浜代表
1977年横浜市生まれ。2001年上智大学文学部哲学科卒。
百貨店、税理士事務所、経営コンサルタント会社勤務などを経て、2013年にケセラセラ横浜を開設。
信用取引や商品先物取引、FXなど様々な投資を経験し、その中で自身に一番合うと感じた大家業を2007年にスタート。不動産投資に関するアドバイスを中心としたファイナンシャルプランナーとして活動中。
金融資産は、イデコやNISAを活用しながら、実物資産は、中古ワンルームを活用しながら、
身銭を切って、自らも資産形成中のプレイヤーでもある。


