大量生産・大量消費から、持たない暮らしへ。人々の価値観は時代とともに移り変わってきました。継続的な経済成長を良しとしてきた従来の価値観から「ミニマリスト」に代表される現代ならではの暮らし方を眺めると、ほんの少し違和感を覚えてしまいます。でも、それは“持たない暮らし”の本当の良さを知らないからかもしれません。
今回は、現代の若者にミニマルな暮らし方がいかに浸透しているかを見つめ、彼らが求めるライフスタイルとは何かについて考えてみましょう。
十人十色な「ミニマリスト」たち
メディアでは、ものを持たない生活を送る人たちを「ミニマリスト」としてまとめてしまうことが多いですが、実際にはかなりの幅があります。ものを見える場所に放置せず、きれいに整頓されたモデルルームのような空間を維持している方から、極限までものを減らし、浴槽も、シャワーも、冷蔵庫やテレビもない部屋に暮らし、定職まで捨て去って浮世離れした生活を送る方まで、その暮らしぶりはさまざま。考え方も十人いれば十通りあります。
ミニマルな暮らしを始めたきっかけも多様で、それこそ単なるきれい好きが高じて、という方もいれば、ものが常に散らかっていた生活にコンプレックスを感じて一大決心したという方も。経済的な理由をきっかけにものを手放していったという方も少なくありませんが、全員ではありません。十分な収入があっても、あえて生活はシンプルに、と望む方もたくさんいます。
彼らに共通しているのは、ものに束縛される生活から脱却し、より自由になりたい、という想いです。
時間もお金も節約する「シンプルライフ」な暮らし方
極端な例はさておき、ここでは現代の若者に浸透しているシンプルライフの考え方を取り上げましょう。時代の流れに敏感な人ほど、そうしたライフスタイルを好む傾向があるのは確かです。
シンプルライフを実践する人たちに「ものを減らす」メリットは何か? そう尋ねたとき、最も多く返ってくる答えが、「ものを維持管理し、使いこなす労力から解放される」こと。
例えば洋服。たくさんの種類を持っていると季節ごとに分けてしまっておくだけでも大変で、さらに、「今日はどの服を着ていこうか」と迷うことになります。ですが、もともと所有している服が少なければ迷う必要がありません。夏物、冬物を分けずにできるだけ一年通して着られる服を選び、寒い時には重ね着する、といった工夫をしている人もいます。古くなったため新たに買い直すときにも、前回と同じものを注文するだけ、と手間は最小限。サイズが合わないというトラブルもありません。
次に多い答えが「省スペース化」。所有物の数を減らすことも大事ですが、一つで複数の機能を兼ねるものを選ぶこともポイントとなります。例えばお風呂場で使う洗浄剤は、シャンプーや洗顔フォームなど、用途ごとに異なる製品を複数用意するのではなく、髪も体も、浴槽も洗えるシンプルな固形せっけんを選ぶことは極めて合理的です。
多くの洗浄剤を収納しておくスペースを空けることができるとともに、使うときにも複数の中から選ばずに済むため、時間の節約にもなります。さらに使い切った際も、それぞれ別々のタイミングでボトルへ詰め替える手間や、費用も抑えることができるという経済的な利点もあります。
また、一日の疲れを癒やす寝床も、座るところと寝るところの2つの機能を備えたソファベッドや、収納機能付きのベッドを選ぶことで、省スペース化を実現。家具を買い足す必要がないので、空間と経済面の双方にゆとりを持つことができます。
このように、ものを減らすことで「維持管理し、使いこなす労力から解放」「省スペース化を実現」でき、見た目にも心にもゆとりが生まれます。まさに“いいことずくめ”というわけです。
ミニマリストやシンプルライフを語るとき、しばしば「断捨離」という言葉も登場します。これは、「不要なものを減らし、生活にゆとりと調和をもたらす」という考え方で、「モノ」より「コト」へと消費の軸がシフトチェンジする今、必要最低限のものしか持たないミニマリストと非常に親和性の高い思想であると言えます。
現在は、単純に不要なものを捨てるのではなく「メルカリ」や「ラクマ」といったフリマアプリに出品して収益を得ることも多いようです。
手放すだけではなく、食事やスポーツ観戦、映画鑑賞といった体験への費用を確保できる合理的な断捨離方法は、まさにミニマリストの合理性を求める特徴とマッチしているのではないでしょうか。
ミニマリスト・シンプルライフから生まれるゆとり
さて、それではものから離れることで、逆に得られるものは何でしょうか?それを一言で表すなら、「豊かな時間」なのかもしれません。身の回りから不要なものを取り除くことで外部から入ってくる情報を減らし、自分自身に向き合うための時間を増やすことができるのです。
また、時間はお金と言い換えることもできます。例えば、新しい洋服や電化製品などに費やしていたお金を節約すれば、自分自身を磨くための学習などに使うこともできるでしょう。多くのものや情報があふれ返る豊かな現代では、自分だけの静かな時間を持てることはとても貴重で、価値のあることなのです。
“持たない暮らし”のための空間設計
ミニマリスト志向の高い若者は、住環境も極力シンプルであることを求めています。本来、家具や家電などに占領されてしまうスペースを開放すれば、くつろぐための場所として広々と使えます。ただ、何もなければ良いというわけではありません。シンプルな造形でありつつも、一つひとつの仕立てが良いことは「ものに煩わされる時間を減らす」ための欠かせない要件となります。
シンプルライフとは端的に言えば効率的な暮らしを目指すもの。そんな“持たない暮らし”が広がりつつある現在において賃貸物件を経営をする際には、そういった時代に即したニーズを把握することがとても重要です。
前述の通り、1つのもので2つの機能を兼ね備えているような家具や、部屋の造りも好まれる要素。収納家具が部屋の仕切りも兼ね、省スペースにつながっている設計は好例です。
入居者の好きなようにアレンジできる何もない部屋も素敵ですが、ある程度の収納や設備が備え付けになっている間取りはミニマリスト志向の高い若者に好まれる傾向にあります。収納や設備が整っているということは、家具やインテリアを後から買い足す必要がないということ。コストだけでなく、スペースも節約できます。空間を最大限に生かし、無駄なものを省いた設計を目指せば、自分と向き合う時間を大切にする現代の若者にも支持されることでしょう。
“持たない暮らし”で豊かな時間を過ごす。そんな新しい視点が確立された現代では、暮らしやすい住まいのあり方がより重要視されているのです。
※2019年6月17日、最新の情報に合わせて加筆修正しています