近ごろ、働き方改革関連のニュースなどで、「テレワーク」という単語をよく耳にするようになりました。テレワークとは在宅勤務や、移動中もしくは移動先で行うモバイルワーク、あるいはシェアオフィスなど、自宅や職場以外のサードプレイスオフィスを使って働くことの総称です。端的に言えば、勤務先のデスク以外で仕事をする働き方を指し、業種によっては同じ意味で「リモートワーク」という言葉が使われることもあります。
このように働き方が変わると、住まいにはどのような変化が起きるのでしょうか? 今回は、テレワークに適した物件(不動産)のカタチや新たに登場した職住一体型のライフスタイルに注目します。
オフィスワークからテレワークへ
「場所を選ばない働き方」であるテレワークは、2つの技術革新の恩恵を受けて導入が進められています。1つ目は、ノートPCやタブレット、スマートフォンなど情報端末の高性能化や小型軽量化。2つ目は、Wi-Fiや4G LTE(近年中には5Gに)といった通信環境の整備です。実際、データ入力や資料作成、ソフトウェア開発のようにPCなどを使って一人で進められる業務であれば、場所を選ばずどこでも仕事ができてしまいます。
特に近年注目されているのが、シェアオフィスやコワーキングスペースといった、職種や属する企業の異なる人々が複数人で共有する仕事場。おしゃれなカフェのような雰囲気に仕立てたもの、ラウンジのような高級感を演出したものなど、最近ではさまざまなスタイルの共有型オフィスが出現しています。なかには、マンションやアパートの共用部をコワーキングスペースとしたソーシャルアパートメントも登場し始めました。単に働くための環境が整っているだけでなく、テレワーカー同士の交流が期待できるのも、新しい仕事場の特徴と言えるでしょう。
ただ、そうした共有型オフィスは、ある程度のプライバシーは確保されているものの、他人の話し声や動作が気になる、秘匿性を確保しにくいといったウィークポイントもあります。一時的に利用するには適していますが、常用するにはコストが高く、特に若い人にとっては現実的な働き方ではありません。やはりテレワークの本命は在宅勤務にあると言えるでしょう。
伝統的な日本家屋から見る職住一体の考え方
それでは、在宅勤務に適した住まいとは、どのような環境でしょうか?
LDKに代表される近代的な間取りは、衣食住を充足させることを最優先に発展してきたものであり、「働く」場所のために設計されたものではありません。しかし、テレワークをする場合、オフィスに出向かず作業を行なうことになるので、最低限、集中して作業できる環境が求められます。
電源や通信環境が確保されていることや、静粛性の高さは大前提。その上で、生活空間と区別できることが理想です。宅配便の応対をせずに済む宅配ボックスなどの設備もあると便利でしょう。
こうした条件を踏まえると、日本の伝統的な住居形態である町家の間取りは、実は職住一体を考える上で理想的なものでした。一般的な町屋の間取りは、通りに面した位置に商品を売るための場所や職人の作業場を置き、その隣にものの出し入れや来客への応対がしやすい玄関を配置。続いて住居、炊事場の順で奥に連なっていくというものです。
さらに、土間兼廊下の役割を担う「通り庭」は部屋の中を横切ることなく、外から部屋から部屋へと行き来することができます。間口が狭く、奥に長く伸びる独特の敷地を有効に利用し、「職」と「住」の空間を見事に使い分けていたのです。
公私を切り分ける空間の使い方は、今後テレワークを前提とした間取りを考える上で参考になるかもしれません。
仕事と暮らしを豊かにする空間設計
現代においてテレワークできる環境が本当に求められているのは、従来の働き方にとらわれない若い人たちが暮らすための集合住宅でしょう。面積の限られたワンルームや1Kといった間取りの中で、職住一体を実現するのは難しいようにも思えます。しかしながら、広さは必ずしも重要な要素ではありません。大切なのは、空間を分けられることです。
例えばこんなロフトのようなベッドを置いたお部屋はどうでしょうか。場所を取りがちなベッドと勉強や読書、作業に使えるワークスペースを一つのキャビンのようにして配置。高い位置にベッドを、内部にはデスクとして利用できるカウンターテーブルを備え付けてあります。リビングの空間とはあえて壁で仕切らず、フロアの高さを変えることで適度な区分を設けます。コンパクトな面積の中で、独立したワークスペースを確保した革新的な間取りはまさにテレワークできる環境にピッタリです。
長方形ではなく、あえて凸凹した形の部屋も実はテレワークに向いています。リビングと寝室をロールスクリーンで仕切ることで、空間の役割を仕分けることが可能だからです。ロールスクリーン一枚で、開けてワンルームのような開放感を得ることも、閉じて分割して1LDKのように使うこともできます。また、キッチンに簡易なカウンターがあれば、食事するときはもちろんのこと、家の中に居ながらカフェのような作業スペースとしても活用できます。くつろぎたいときはリビングスペースのソファでゆったりと、仕事をしたいときはロールスクリーンを下げて集中できるスペースを確保するなど、フレキシブルに空間を変えることができます。
このように、人々の働き方やライフスタイルが変化していくなかで、住まいに求められる役割も変化してきています。暮らしやすく、働きやすい住環境は、今後の日本のスタンダードになるかもしれません。時代に合わせたカタチに住宅も変化していく……。これからは決まり切った定形的なカタチではなく、ニーズを捉えた個性的なカタチが求められていくのかもしれませんね。