
アパート経営を始める際、「まずは個人事業主で」と考える方は少なくありません。しかし、「税金はどうなるの?」「最初から法人化したほうがお得なの?」と悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
本記事では、個人事業主としてアパート経営を行うメリット・デメリットや、経費にできる項目を分かりやすく解説します。
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アパート経営の事業形態
アパート経営を始める際、多くのオーナーはまず「個人事業主」としてスタートします。手続きがシンプルで、初期コストも抑えられるからです。
個人事業主で始める理由
個人事業主としてアパート経営を始めるのは、思いのほかハードルが低いものです。税務署に「開業届」を提出するだけで、すぐに事業をスタートできます。
法人(株式会社・合同会社)を設立する場合は、登記費用や定款認証などで約6万~25万円の初期コストがかかります。それに比べて、個人事業主は費用ゼロで開業できる点が大きな魅力です。
また、確定申告や帳簿管理の手間も、法人の会計に比べてシンプルです。初めて不動産投資に取り組む方にとって、まずは個人事業主として経験を積むのは、合理的な選択といえるでしょう。
事業的規模となる基準
アパート経営における「事業的規模」とは、税務上の優遇を受けられるかどうかを判断する重要な基準です。
戸建て5棟以上、またはアパート・マンションなどの集合住宅10室以上を所有・賃貸している場合に、「事業的規模」と認められます(「5棟10室基準」)。
事業的規模に達すると、受けられる税制上のメリットが広がります。例えば、青色申告特別控除の上限が10万円から55万円(e-Taxなどの利用で最大65万円)に引き上げられ、家族を「青色事業専従者」として給与の支払いを経費化することが可能です。
個人経営と法人経営の違い

個人経営と法人経営の違いは、「税率の仕組み」にあります。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 開業コスト | ほぼゼロ | 約6万~25万円 |
| 税率 | 最大55%(累進課税) | 実効税率約21~34%(所得800万円以下の軽減税率適用を含む) |
| 節税手段 | 青色申告・損益通算など | 役員報酬・退職金など |
| 手続きの複雑さ | 比較的シンプル | 複雑・専門家が必要 |
| 責任の範囲 | 無限責任 | 有限責任 |
個人の場合は累進課税(所得が増えるほど税率が上がる仕組み)が適用されます。所得税の最高税率は45%で、住民税10%を合わせると最大55%もの税負担です。
一方、法人の場合は法人税だけでなく、地方法人税・法人住民税・法人事業税なども含めて税負担を確認しなければなりません。単純比較はできませんが、所得水準や役員報酬の設計、社会保険負担、将来の資産承継まで含めて検討すると、法人化が有利になるケースがあります。
ただし、設立・維持コストや社会保険料の負担も生じるため、どちらが有利かは収益規模によって異なります。
個人事業主で行うメリット
個人事業主としてアパート経営を行う強みは、税制優遇の活用です。正しく使えば、手元に残るお金を大きく増やせます。
青色申告で節税できる
個人事業主がアパート経営で得られる節税の代表格が「青色申告特別控除」です。確定申告の際に青色申告を選択し、複式簿記(収入・支出を借方・貸方に分けて記録する帳簿方式)で記帳すると、最大65万円を所得から控除できます。
「事業的規模(5棟10室以上)」を満たした上で、e-Taxによる電子申告を行うことが65万円控除の条件です。事業的規模に満たない場合でも、10万円の控除は受けられます。
例えば課税所得が500万円の場合、65万円の控除により課税対象が435万円に下がり、所得税・住民税の節税額は約20万円前後になります。申告の手間はかかりますが、節税効果は大きいといえるでしょう。
損益通算で所得税を減らせる
「損益通算」とは、事業で生じた赤字を給与所得などほかの所得と合算し、課税所得全体を引き下げられる仕組みです。
アパート経営では、建物の減価償却費(建物の取得費用を耐用年数に応じて毎年費用化する会計処理)や修繕費が大きくなる年があります。その結果、帳簿上は赤字になるケースも少なくありません。
サラリーマン大家の方にとって、この損益通算は特に有効です。給与所得と不動産所得の赤字を相殺することで、源泉徴収された所得税の還付が受けられます。節税効果を最大化するには、減価償却費の計上タイミングを意識した収支計画が重要です。
家族への給与を経費にできる
青色申告を選択することで、家族を「青色事業専従者」として届け出れば、支払った給与を全額経費にできます。
白色申告(簡易な記帳方式)では配偶者を専従者としても「事業専従者控除」として最大86万円までしか控除できないのに対し、青色申告では働きに見合った額であれば上限なく経費計上が可能です。
例えば、配偶者が物件の管理補助や帳簿管理を担う場合、月15万円の給与(年180万円)を支払うと、その全額が経費として認められます。家族全体での手取りを増やしながら、所得税を合法的に圧縮できる点は、個人事業主ならではのメリットです。
個人事業主で行うデメリット
メリットが多い個人事業主での経営ですが、収益が拡大するにつれて無視できないデメリットも出てきます。
毎年の確定申告に手間がかかる
個人事業主がアパート経営を行う場合、毎年2月16日~3月15日に確定申告を行う義務があります。給与所得だけの会社員とは異なり、不動産所得を自分で申告しなければなりません。
青色申告で65万円控除を受けるには、複式簿記での記帳が必須です。賃料収入・修繕費・減価償却費などを日々記録し、決算書を作成する必要があります。
慣れないうちは、税理士への依頼費用(年間10万~30万円程度)が別途かかるケースも少なくありません。自分で対応する場合も、会計ソフトの習得など一定の時間と労力が求められます。
累進課税によって税率が上がる
個人の所得税は「累進課税」の仕組みを採用しており、所得が増えるほど適用される税率が段階的に高くなります。
| 課税所得 | 所得税率 | 住民税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 10% | 15% |
| 330万円未満 | 10% | 10% | 20% |
| 695万円未満 | 20% | 10% | 30% |
| 900万円未満 | 23% | 10% | 33% |
| 1,800万円未満 | 33% | 10% | 43% |
| 4,000万円未満 | 40% | 10% | 50% |
| 4,000万円以上 | 45% | 10% | 55% |
所得税の税率は5~45%の7段階に分かれており、課税所得が900万円を超えると個人の所得税率だけで33%に達します。アパート経営の規模が大きくなり家賃収入が増えてくると、この累進課税の影響を感じやすくなるでしょう。
この水準は、中小法人の所得800万円超部分にかかる実効税率(概ね30%台前半)と近い水準ですが、法人では役員報酬を給与として受け取ることで給与所得控除が適用され、世帯全体の税負担を抑えやすくなります。
一定の収益水準を超えたタイミングで、法人化の検討が現実的な選択肢になります。
個人で無限の責任を負う
個人事業主の場合、事業上の債務に対して「無限責任」を負います。つまり、アパートのローン返済が困難になった際、事業の資産だけでなく個人の預貯金や自宅なども返済の対象です。
一方、法人(株式会社・合同会社)は「有限責任」が原則で、出資額を上限として責任が限定されます。個人の財産は、原則として切り離して保護されます。
アパート経営では数千万~数億円規模の融資を受けることも珍しくありません。万が一の事態に備える上でも、事業規模が大きくなるほど、この責任範囲の違いは見過ごせないリスクとなります。
経費計上できる費用

個人事業主のアパート経営では、適切な経費計上が節税の鍵を握ります。計上できる項目を正しく把握し、漏れなく申告することが大切です。
固定資産税などの税金
アパートの土地・建物にかかる「固定資産税」と「都市計画税」は、毎年の経費として計上できます。固定資産税は固定資産税評価額の1.4%(標準税率)、都市計画税は最大0.3%(制限税率)です。これらは「租税公課(そぜいこうか)」という勘定科目で処理します。
なお、所得税や住民税は経費にできません。経費として認められる税金の種類を正確に把握しておくことが重要です。
修繕費や管理委託手数料
建物の維持・管理にかかる費用も、経費として計上できます。主な項目は以下のとおりです。
| 費用の種類 | 具体例 | 経費区分 |
|---|---|---|
| 修繕費 | 外壁塗装・設備交換・クロス張替え | 修繕費 |
| 管理委託手数料 | 管理会社への委託料(家賃の5~10%程度) | 管理費 |
| 損害保険料 | 火災保険・地震保険の掛け金 | 損害保険料 |
| 広告宣伝費 | 入居者募集の広告費用 | 広告宣伝費 |
ただし、修繕費と資本的支出(建物の価値を高める大規模工事)の区分には注意が必要です。外壁の塗り直しなど原状回復を目的とするものは「修繕費」として一括計上できますが、耐震補強や増築など資産価値を高める工事は「資本的支出」として減価償却が必要になります。
減価償却費とローン利息
節税効果が特に高い経費として、「減価償却費」と「ローン利息」の2つが挙げられます。
減価償却費とは、建物の取得費用を法定耐用年数にわたって毎年費用として配分する会計処理です。木造アパートの法定耐用年数は22年で、取得費用を22年間にわたって経費計上できます。実際の現金支出はないにもかかわらず経費として認められるため、節税効果が大きい項目です。
ローンを組んでいる場合は、毎月の返済額のうち「利息部分のみ」が経費として認められます。元本返済分は経費にならないため、混同しないよう注意しましょう。
法人化を検討すべき目安
「個人事業主のままでいるべきか法人化すべきか」の判断は収益規模や将来の目標によって異なりますが、一定の目安があります。
課税所得が900万円を超えたとき
法人化を検討する一つの目安として、課税所得が900万円を超えるタイミングです。
個人の所得税率は課税所得900万円超で33%となり、住民税10%を加味すると税負担は重くなります。ただし、法人化の有利不利は、法人税率だけではなく地方税や社会保険料、役員報酬の取り方、設立維持コストも含めて変わるため、「課税所得900万円超なら一律に法人が有利」とまではいえません。
また、法人化すると役員報酬として自分への給与を設定できます。給与所得控除(上限あり)が適用されるため、さらに課税所得を圧縮できる点も見逃せません。
本格的な相続対策を始めるとき
資産規模が大きくなってきた場合、相続対策を目的とした法人化も有効な選択肢です。
「資産管理会社」を設立し、アパートの収益をそこに集約することで、個人の財産が膨らむスピードを抑えられます。
さらに、法人名義で新たな物件を取得していくことで、相続財産そのものを増やさずに資産形成を続けられます。将来的に複数の物件取得を見据えているオーナーにとって、早めの法人化が長期的な節税につながるケースは多いでしょう。
個人事業主でのアパート経営を成功させるコツ

個人事業主としてアパート経営を長く続けるには、収益を上げるだけでなくリスクを管理する視点が欠かせません。成功のカギとなる3つのポイントを押さえましょう。
余裕を持った資金計画を立てる
アパート経営では、想定外の出費が必ず発生します。給湯器の故障や外壁の修繕など、1回あたり数十万円規模の費用がかかるケースも珍しくありません。
家賃収入の10~15%を修繕積立金として別口座で管理し、空室期間も見越した手元資金を確保しておくことが基本です。フルローンや高レバレッジ(少ない自己資金で大きな借入をする手法)での運営は、金利上昇や空室長期化により、一気にキャッシュフローが悪化するリスクがあります。
集客力のある管理会社を選ぶ
空室リスクを抑える上で、管理会社の選定は経営を左右する重要な判断です。管理委託手数料の安さだけで選ぶのではなく、「入居率の実績」「客付けに強い仲介会社とのネットワーク」を重視して選びましょう。
管理会社を変更するだけで入居率が改善したケースも多くあります。既存の管理会社に満足できない場合は、定期的に見直す姿勢も大切です。
最新の税務知識を常に学ぶ
税制は毎年のように改正されます。青色申告の要件や減価償却のルール変更など、知らないまま申告すると本来受けられた節税メリットを逃すことになりかねません。
国税庁のホームページや税理士との定期的な相談を通じて、自分の経営に影響する税制変更を早めにキャッチする習慣をつけましょう。顧問税理士を活用することで、申告の正確性を高めながら節税の機会を最大化できます。
アパート経営は個人事業主でも十分に可能
個人事業主としてのアパート経営は、青色申告や損益通算など豊富な節税手段を活用でき、十分に実現可能な選択肢です。ただし、収益が拡大し課税所得が900万円を超えてきたら、法人化への切り替えも視野に入れましょう。
大切なのは、現在の規模と将来の目標に合った経営形態を選ぶことです。税務知識をアップデートしながら、信頼できる専門家や管理会社と連携することが、長期的な安定経営への近道です。
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いまさら聞けない!
アパート経営の疑問を解消
自己資金、利益、空室対策…
アパート経営によくある不安と解決策をまとめました。
今なら無料で、メールにてお届けします。
< この記事の監修者 >

大塚 正幸
大塚正幸税理士事務所 代表/税理士
東京税理士会京橋支部所属
東京国税局に約30年間勤務し、相続税・贈与税・譲渡所得税などの資産税事務を専門に従事。 千葉西税務署、江東西税務署、品川税務署、東京上野税務署をはじめ合計17ヵ所の税務署で統括国税調査官として相続税調査の最前線に立ち、申告書精査から調査事案選定まで幅広い実務を経験。 令和2年7月に退職後、同年9月に税理士事務所を開業。現在は相続税専門税理士として申告業務を中心に活動するかたわら、大手税理士法人のセカンドオピニオン業務も手がける。 令和4年4月より千葉県税理士会税務研究所研究員として、税理士向けの財産評価・相続税申告相談も担当。


