土地や建物を所有していると発生する「固定資産税」。毎年届く納税通知書を見て「うちの固定資産税、なんだか高い気がする…」と疑問を抱く人もいるかもしれません。
実際、固定資産税はどのようにして決定されるのでしょうか。また、自分で算出することはできるのでしょうか。固定資産税算出の仕組みや計算方法など、固定資産税について知っておきたいことをまとめました。
土地にかかる税金の計算に必要!「固定資産税評価額」とは

固定資産税は、土地や建物などの固定資産に課せられる税金のことで、資産が所在する市町村(東京23区の場合は都)に納税します。
固定資産税の税額は、毎年1月1日時点の「固定資産税評価額×標準税率」で計算します。
では、計算に用いられる固定資産税評価額はどのように決まるのでしょうか。
固定資産税評価額とは
固定資産税評価額は「課税評価額」とも呼ばれ、課税対象の不動産(=固定資産)の価格です。この価格は、実際に売買される不動産の値段と同じではありません。土地価格の種類については次の項で解説します。
固定資産税評価額の決まり方
固定資産の価格は、総務大臣が定めた「固定資産評価基準」に基づいて評価され、市町村長(東京23区の場合は都知事)が決定します。
固定資産税評価額は3年に1度のタイミングで見直されます。固定資産の評価を見直すことを「評価替え」、更新が行われる年度を「基準年度」といいます。
基準年度は直近では令和6年度(2024年度)で、次回は令和9年度(2027年度)です。基準年度でも評価額が変わらず、据え置かれる場合もあります。
固定資産税評価額以外の土地評価額

固定資産税評価額は、実際に売買される不動産の値段とイコールではないことを前述しました。
実は土地には「一物五価(いちぶつごか)」といって、1つの物件に対し5つの価格を示す指標が存在しています。具体的には固定資産税評価額のほか、公示価格(公示地価)、実勢価格、基準地価、路線価です。
公示価格(公示地価)
「地価公示法」に基づいて、国土交通省の土地鑑定委員会が毎年1月1日時点の1㎡あたりの価格を判定し公示するものです。国交省の「不動産情報ライブラリ」で誰でも閲覧が可能です。
令和6年の地価公示では、全国で2,259人の鑑定評価員(不動産鑑定士)が全国26,000地点を鑑定評価。公示価格は一般の土地取引に加えて、不動産鑑定や公共事業用地の取得価格算定、相続税評価や固定資産税評価の規準としても活用されます。
参考:国土交通省地価公示・都道府県地価調査の検索(不動産情報ライブラリ)|国土交通省
実勢価格
実際に取引された不動産価格のことで、立地や周辺環境のほか、売買における双方の事情や価格交渉などの影響を受けます。そのため、同じ場所にある土地でも実勢価格は変わることがあります。
基準地価
「国土利用計画法」に基づき、都道府県が毎年7月1日時点での土地価格を判定するものです。公示地価と同様に売買取引や買収の際の算定規準となります。基準地価も「不動産情報ライブラリ」で確認することができます。
路線価
公示地価や基準地価と同じく公的な土地の価格ですが、主体が国税庁や市町村となります。相続税や贈与税、固定資産税の課税額の算定規準となる毎年1月1日時点の価格で、その土地が面している道路ごとに設定されることから「路線価」と呼ばれます。
国税庁が公表している路線価を「相続税路線価」、市町村(東京都の場合は都)が固定資産税を算出する際に使用する路線価を「固定資産税路線価」といいます。単に「路線価」という場合は「相続税路線価」を指します。
路線価は国税庁のホームページで確認可能です。
固定資産税評価額を調べる方法

固定資産税を計算する前に、まずは固定資産税評価額を調べる必要があります。市町村長(東京23区の場合は都知事)が決定している固定資産税評価額の確認方法は以下の3つです。
固定資産税課税明細書
毎年送付されてくる納税通知書に同封の「課税明細書」に、固定資産税評価額の記載があります。市区町村によって書式は異なるものの、「価格」または「評価額」の欄にあるのが固定資産税評価額となります。
固定資産課税台帳
市区町村の役所や都税事務所で「固定資産課税台帳」を閲覧することでも固定資産税評価額を確認できます。台帳は土地と家屋に分かれており、所有者や所在地のほか、「価格」の欄に固定資産税評価額が記載されています。
閲覧時間や手数料は各自治体によって異なるため、事前にホームページなどで確認しましょう。閲覧にはマイナンバーカード(個人番号カード)や運転免許証など、官公署発行の顔写真付き本人確認書類の提示が必要です。また、閲覧できるのは納税義務者本人と相続人、委任状を持った代理人のみとなります。
固定資産評価証明書
市区町村の役所や都税事務所で「固定資産評価証明書」を取得する方法もあります。固定資産課税台帳の閲覧と同じく、取得申請ができるのは納税義務者本人と相続人、委任状を持った代理人のみです。
窓口での申請に加え、郵送による取得も可能で、郵送の場合は手数料を定額小為替で支払います。
固定資産税評価額を用いて算出できる税金

固定資産税評価額の調べ方についてお伝えしましたが、調べた固定資産税評価額をもとに算出できる税金にはどんなものがあるのでしょうか。まず代表的な税金が固定資産税です。
固定資産税
固定資産税額は基本的に「固定資産税評価額×1.4%(標準税率)」によって求められます。しかし、所有する固定資産税評価額が土地30万円未満、家屋20万円未満、償却資産150万円未満であれば課税されません。
償却資産とは土地・家屋以外で事業に使われる設備や機械、船舶などを指します。
税率は1.4%であることがほとんどですが、自治体によって違う税率を定めている場合もあるためホームページなどで確認しましょう。
所有する不動産が一定の要件を満たした場合、固定資産税には軽減措置が適用されます。
税額を抑えられる! 固定資産税の軽減措置
土地の固定資産税には「住宅用地の特例」があります。一戸建てやアパートなど、人が住むための家屋の建築に利用される土地「住宅用地」に適用されるもので、以下のように固定資産税が軽減されます。
・小規模住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200㎡以下の部分):固定資産税評価額 × 1/6
・一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200㎡を超える部分):固定資産税評価額 × 1/3
また、令和8(2026)年3月31日までに新築した住宅に適用される「新築住宅特例」もあります。新築住宅にかかる固定資産税は3年間(マンション等の場合は5年間)、認定長期優良住宅の場合では5年間(マンション等の場合は7年間)が1/2に減額されます。
登録免許税

登録免許税は、不動産を登記するときに支払う税金で、建物の新築や不動産の売買時に課税されます。税額は「固定資産税評価額×税率」で計算され、税率は登記の内容によって異なります。
登記内容による税額の違い
主な不動産登記の内容とそれぞれの税率は次のように定められています。
・土地の売買(所有権移転)・・・2%(令和8年3月31日までは1.5%)
・土地の相続(所有権移転)・・・0.4%
・土地の贈与(所有権移転)・・・2%
・建物の新築(所有権登記)・・・0.4%(個人が自宅を建てた場合は令和9年3月31日まで0.15%、特定認定長期優良住宅や認定低炭素住宅の場合は0.1%に軽減)
・建物の売買(所有権移転)・・・2%(個人が自宅を購入した場合は令和9年3月31日まで0.3%)
・建物の相続(所有権移転)・・・0.4%
軽減税率の適用には、床面積が50㎡以上であることや、新築または取得後1年以内の登記であることなどの要件が設けられています。
都市計画税
都市計画税は固定資産税と一緒に納める税金で、「固定資産税評価額×税率」で計算されます。税率は0.3%以下で、市町村によって異なります。都市計画税にも「住宅用地の特例」があり、以下のように減額されます。
・小規模住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200㎡以下の部分):固定資産税評価額 × 1/3
・一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200㎡を超える部分):固定資産税評価額 × 2/3
不動産取得税
不動産取得税は、土地や建物を相続や売買で取得したときに一度だけ課せられる税金です。不動産取得税の税率は4%ですが、令和9(2027)年3月31日までは3%に軽減されています。
不動産取得税には土地・建物それぞれに軽減や特別控除がありますが、東京都主税局が提供している「不動産取得税計算ツール」を使えばおおよその税額が計算できます。
固定資産税評価額の計算方法

納税通知書が届いて、納税額や固定資産税評価額が変わっていたら疑問を持たれる方もいるかもしれません。固定資産税評価額が3年に1度見直されることは「固定資産税評価額の決まり方」の項で触れましたが、どのように計算されているのでしょうか。土地と建物、それぞれもう少し細かく見てみましょう。
土地の固定資産税評価額の計算方法
土地の評価は総務大臣が定めた「固定資産評価基準(土地)」に基づいて、地目別に定められた評価方法で行われます。地目には「宅地」のほかに「田」「山林」「畑」などがあります。
ここでは宅地について見ていきましょう。宅地の評価方法には「路線価方式」と「標準地比準方式」が用いられます。
路線価方式
「路線価方式」による固定資産税評価額の計算は、「固定資産税路線価」を基準に「路線価 × 土地面積 × 補正率」で行われます。補正率については総務省が定めた基準をもとに評価されます。
固定資産税路線価は市町村が定めたものであり、土地の位置や条件に基づいて設定されています。公示地価の70%程度を目安として設定され、国税庁が定める相続税路線価よりさらに低めに設定されることが一般的です。補正率は土地の形状や奥行などの条件によって適用されます。
例えば、同じ路線に面した同じ面積の土地であっても、接道幅が4mの土地と10mの土地では利便性が異なるため、評価額も異なります。また、角地や不整形地の場合は、それぞれの土地の特性に応じた補正率を適用して価格を算出します。
標準地比準方式
「標準地比準方式」は宅地が接する道路の状況、家屋の疎密度などを総合的に見て、利用状況が似ている地区ごとに定めた標準地1㎡あたりの単価をもとにして計算します。こちらも土地の形状などで補正率を加算します。
計算式は「標準宅地の1㎡単価 × 土地面積 × 補正率」です。
ただし、一般の人が固定資産税評価額を正確に計算するのはかなり困難です。土地の形状などによって変わりますが、目安は公示価格の70%程度と覚えておくとよいでしょう。
建物の固定資産税評価額の計算方法
建物の評価額は「再建築価格」と「経年減点補正率」を用いて算出します。
再建築価格とは、同一の建物をその時点で同じ場所に新築するときに必要な建築費のことです。そこに経年劣化を数値化した「経年減点補正率」を掛けて算出します。
例えば、経過年数1年の木造の経年減点補正率は0.8、築27年で0.2となり、それ以降は変わりません。
再建築価格が5,000万円の建物も築1年で4,000万円、築27年以降は1,000万円の評価となるわけです。
実際は、屋根や外壁などに使われている建材の細かい評価や物価水準などに応じて補正し、最終的な評価額が決まることになります。
参考:経年減価補正率表|法務局
固定資産税評価額に関する注意点と対策

固定資産税の徴収ミスについてのニュースをよく目にすることがあります。課税の誤りといった事例は全国の自治体で起きており、多くは委託業者や職員の単純な入力ミスによるものです。
総務省の調査によると、平成21(2009)年度~23(2011)年度の間に税額を修正した納税義務者数が1人以上あった市町村は、調査した1,592市町村のうち97%にものぼりました。
これらすべてが市町村のミスによるものとは限りませんが、納税通知書に記載されている納税額を鵜呑みにせず、自分でもチェックしたほうがよいでしょう。
参考:固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の状況調査結果|総務省
例えば、再建築不可の土地やアパートの入居者専用駐車場の土地などは評価が減額されますが、見落とされていることがあるようです。セットバックした部分の土地なども申告すれば公衆用道路として非課税となるため、忘れず申告し、納税通知書に反映されているかを確認しましょう。
また、1年以上前に売却した土地の納税通知書が届き、複数の不動産を所有している場合に気づかず支払ってしまうケースもあります。納税通知書が届いたら各項目に誤りがないかを必ずチェックしましょう。
過大評価や過小評価の妥当性確認
「一般の人が固定資産税評価額を正確に計算するのはかなり困難」と前述しましたが、もし過大評価や過小評価をされてしまっている場合、どのように確認すればよいのでしょうか。
固定資産税評価額が適正であるかどうかを判断するために、自己資産と他の資産の価格を比較できる縦覧(じゅうらん)という制度があります。縦覧ができるのは毎年4月1日から5〜7月頃(自治体によって異なる)と期間が定められています。
閲覧と似ていますが、期間が定められている点と、同じ市区町村内の資産の価格と比べられる点が異なります。対象者は納税者か納税者の委任状を持参した代理人のみです。余談ですが、縦覧期間中は多くの自治体で閲覧の手数料が無料になります。
問題があった場合の対応策
もし納税額に疑問を抱いた場合は、まずは市区町村役場に問い合わせてみましょう。所有者であることが分かる納税通知書や本人確認ができる書類などを窓口に持参します。
固定資産課税台帳に登録された評価額に不服がある場合は、納税通知書の公布から3カ月以内に書面にて固定資産評価審査委員会に審査の申し出をすることができます。
まとめ

万が一、市区町村のミスでこれまで固定資産税を払い過ぎていた場合でも、払い過ぎた分のすべてが還付されるとは限りません。何十年にもわたる過大請求だとしても、還付されるのは原則5年分となります。
もし市区町村に著しい落ち度がある場合、国家賠償法によって最長20年分が還付されますが、市区町村の落ち度についての立証責任は納税者にあります。理不尽にも感じますが、そうならないためにも納税通知書を毎年しっかり確認しましょう。
土地の地目や建物の構造、土地面積や延床面積が違っていないか、軽減特例が適用されているかどうかは専門家でなくてもチェックできます。縦覧制度を利用するのは、近隣の相場を知るためにもおすすめですので、一度行ってみてはいかがでしょうか。
<この記事の監修者>
野上 浩二郎(税理士法人アンサーズ会計事務所 代表社員 税理士)
2009年に辻・本郷税理士法人に入社し、相続・事業承継専門の部署にて数多くの相続案件及び、中小企業の事業承継案件を手掛ける。2012年に税理士法人アンサーズ会計事務所を設立。資産家や中小企業オーナーの多くが潜在的に抱える相続・事業承継の悩みを掘り起こし、解決するために全力を尽くしている。