資産を確実に引き継ぐ方法として、その有効な手段のひとつが「生前贈与」です。特に財産の中でも高額になりがちな不動産は、相続よりも生前贈与が節税になる可能性があります。
不動産の生前贈与を行う際の流れやかかる費用、注意点などについてまとめました。
不動産の生前贈与で相続税はおトクになる?
財産を渡す方法には「相続」と「贈与」があります。相続は亡くなった人(被相続人)の財産を引き継ぐこと、贈与は文字通り、無償で与えることを指します。相続には「相続税」、贈与には「贈与税」がかかりますが、課税される条件はそれぞれ異なります。
そのため、状況によっては生前に贈与したほうが、将来相続して相続税を払うよりも節税になる場合があるのです。まずは不動産を生前贈与することのメリット・デメリットから見てみましょう。
生前贈与がもたらすさまざまなメリット・デメリット
生前贈与によるメリット
財産の所有者が生きているうちに贈与するため、贈与したい人に確実に財産を渡すことができるのが最大のメリットといえるでしょう。
贈与する不動産が収益物件であれば、贈与したあとの家賃収入も譲り渡すことができます。タイミングも自分で選べて回数制限もないため、長期にわたる計画的な財産承継が可能です。
贈与によって財産を減らし、将来の相続税の負担を軽くできる点も大きなメリットに。値上がりしそうな不動産をあらかじめ贈与しておけば、さらに節税効果を高められます。
また、一定の条件を満たした夫婦間での贈与であれば「配偶者控除の特例制度」が適用可能。この特例によって、最大2,000万円まで贈与税を控除できます。「配偶者控除の特例制度」については、次項の「不動産の生前贈与をしたほうがよいケース」で解説します。
生前贈与によるデメリット
贈与税の税率は相続税より高く設定されています。さらに、不動産を移転した場合にかかる「不動産取得税」は、一般的な相続の場合にはかかりませんが、贈与では課税されます。
不動産取得税の税額は「不動産の評価額×税率4%」ですが、土地と住宅については2027(令和9)年3月31日の取得までは3%に引き下げられています。
「登録免許税」も相続では税率が0.4%である一方、贈与では2%と5倍も高くなります。贈与にかかる税金やそのほかの費用については、相続税と比べて高いケースが多いのです。
また、「相続時精算課税」を適用して生前贈与すると、相続の際に利用できる「小規模宅地等の特例」が受けられないというデメリットがあります。
相続時精算課税とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子や孫(養子を含む)に生前贈与した場合に、累計2,500万円まで贈与税が控除される仕組みです。(ただし贈与した分は将来、相続税の課税対象に足し戻されます)
「小規模宅地等の特例」は、自宅の敷地など一定要件を満たす土地であれば評価額を最大80%減額できる制度。この特例によって不動産の相続時に税額を大幅に減らすことができますが、生前贈与した場合は適用されません。
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
不動産の生前贈与をしたほうがよいケース
それでは、どのようなケースにおいてメリットが大きく、デメリットは小さくなるのでしょうか。次のような場合には、不動産の生前贈与を検討するとよいでしょう。
将来的に不動産価格が上がりそうな土地
贈与税も相続税も、不動産の評価額に対して課税されます。贈与税は贈与時の評価額を基準として税額を計算するため、将来的に値上がりしそうな不動産であれば、早めに贈与することで相続税の負担を減らせるでしょう。
その不動産の周辺で開発が予定されていたり、駅や学校の新設、企業や工場の誘致が決まっていたりするなど、値上がりの要素があれば相続よりも贈与のほうが節税になる可能性が高くなります。
アパート・賃貸マンションなどの収益物件
家賃収入があるアパートや賃貸マンションの場合、贈与することでその後の収益は受け取った人(受贈者)のものになります。受贈者に今後の収入を確保させたい場合などにも有効です。
また、収益物件を所有するうちに家賃収入による資産が増え、相続時の相続税額が上がってしまう状況も贈与によって防ぐことができます。
婚姻期間が20年以上の夫婦
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産またはそれを取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで非課税になるという特例があります。
これがメリットの項でも触れた「配偶者控除の特例制度」で、別名「おしどり贈与」とも呼ばれています。この特例の適用を受けるためには、贈与税の申告が必要です。
参考:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁
不動産を生前贈与するときの流れ
実際に不動産を生前贈与する際の手続きを見てみましょう。まずは誰に何を相続するのかを決めて、必要書類を揃えます。
■申請に必要な書類
・不動産贈与契約書
・登記識別情報通知(登記済権利証)… 法務局で取得
・贈与する人(贈与者)の印鑑証明書 … 3カ月以内のもの
・贈与を受ける人(受贈者)の住民票
・固定資産評価証明書または課税明細書 … 名義変更する年度のもの
・登記原因証明情報 ※不動産の名義変更登記に必要
・登記申請書 ※不動産の名義変更登記に必要
上記のうち、登記原因証明情報と登記申請書は不動産の名義変更登記に必要な書類です。ご自身で用意するか、司法書士に登記を依頼し作成してもらうこともできます。
贈与契約書の作成
贈与は民法で口頭による契約が有効とされていますが、贈与契約書があれば、財産を渡す贈与者と、財産を受け取る受贈者の意思をはっきりと書面で残すことができます。のちのトラブルを避けるためにも「不動産贈与契約書」は作成するようにしましょう。
不動産贈与契約書は法務局や自治体などのホームページにひな形がアップされているので、参考にしましょう。決まった書式はありませんが、以下の項目を必ず記載します。
・贈与契約の締結日
・贈与の履行日
・贈与財産の情報(金額や種類、不動産の所在や大きさなど)
・贈与の方法
・贈与者と受贈者の住所、氏名
契約書のフォーマットはパソコンで作成できますが、署名は手書きで行い、実印を使うようにしましょう。
また、不動産を贈与する場合は契約書に収入印紙が必要です。印紙は、契約書に金額の記載がなければ200円、記載があればその金額に応じた印紙を貼付し、割印します。
これを2通作成し、贈与者と受贈者の双方が署名捺印後、重ねて縦にずらし上部左側の余白に割印します。贈与者と受贈者が1通ずつ保管しますが、公正証書として作成すると紛失や改ざんのリスクを避けることができます。
所有権の移転登記申請
贈与契約を締結したら、不動産登記簿の名義を受贈者に変更する手続きを行います。これが「所有権移転登記」です。所有権移転登記は贈与する不動産を管轄している法務局に申請します。専門知識が必要なため、司法書士に依頼することが一般的です。
生前贈与にかかる費用
土地を生前贈与する際には、どのような費用が発生するのでしょうか。主なものは各種税金と専門家への報酬です。
不動産取得税
不動産取得税は、土地や建物を取得した際に管轄の都道府県に納める地方税で、受贈者に課税されます。デメリットの項でも述べたように税率は4%、土地と住宅については2027(令和9)年3月31日の取得までは3%に引き下げられています。
参考:不動産取得税|総務省
不動産取得税の計算方法
土地と住宅の場合は2027(令和9)年3月31日までは3%の軽減税率が適用されますが、土地と建物それぞれに軽減措置があるため、分けて計算する必要があります。
土地は宅地の場合、2027(令和9)年3月31日まで評価額の1/2が課税標準額となります。さらに、宅地なら「4万5,000円」もしくは「土地1㎡あたりの価格×住宅の床面積の2倍(1戸あたり200㎡が上限)×住宅の取得持分×3%」の高いほうの額が税額から減額されるという軽減措置があります。
建物については、新築住宅は固定資産税評価額から1,200万円が控除されます。ただし、床面積が50㎡(一戸建て以外の住宅で貸家の用に供する場合は40㎡)以上240㎡以下であることが要件です。
中古住宅は築年次ごとに決められた額が控除されます。1997(平成9)年4月1日以降に建てた住宅は新築と同じ1,200万円、1989(平成元)年4月1日~1997(平成9)年3月31日は1,000万円、1985(昭和60)年7月1日~1989(平成元)年3月31日は450万円と、築年数が古くなるにつれて控除額は低くなります。
中古住宅の軽減措置を受けるためには、自ら居住する目的であることや延床面積が50~240㎡以下であること、新耐震基準に適合という要件があります。
不動産取得税の計算はかなり複雑ですが、東京都主税局のホームページに計算ツールがあります。条件などを入力すると自動計算してくれるため、参考値が知りたい方は試してみてください。
登録免許税
贈与の場合、登録免許税には「不動産の評価額×税率2%」が適用されます。デメリットの項でも触れたとおり、相続の際の税率0.4%よりも5倍高くなります。
登録免許税の計算方法
不動産贈与の登録免許税は「不動産の評価額×税率2%」であるため、例えば5,000万円の土地を贈与した場合は以下のような計算式が当てはまります。
5,000万円 × 2% = 税額100万円 … 登録免許税は100万円です。
登録免許税は基本的には現金、もしくはインターネットバンキングやクレジットカードからの納付が可能です。しかし、現金のように贈与されたものから支払うことができないため、ある程度の自己資金が必要です。
贈与税
贈与には贈与税がかかりますが、1年あたり110万円の基礎控除があります。その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の価額から110万円を超えたものについては下記の税率と控除額が適用されます。
1年ごとの控除で回数制限がないため、複数回にわたって財産を贈与することも可能です。これを暦年贈与といいます。
<贈与税の速算表>
◆一般税率(兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合など)
◆特例税率(受贈者が18歳以上で祖父から孫への贈与、父から子への贈与など)
出典:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
贈与税の計算方法
贈与税の税額は「(贈与額-110万円)×税率-控除額」で算出できます。例えば、一般税率で500万円を贈与した場合は前項の表に当てはめると、
基礎控除後の課税価格 500万円 - 110万円 = 390万円
贈与税額 390万円 × 20% - 25万円 = 53万円 となります。
司法書士や税理士への報酬
司法書士や税理士への報酬については決まった額が定められておらず、依頼する事務所や依頼内容によっても異なります。
2018(平成30)年実施の司法書士報酬アンケートによると、贈与による不動産の所有権移転登記の関東地区での平均は4万7,806万円。低額者10%の平均2万8,936円〜高額者10%の平均8万3,326円から見ても、だいたい3〜8万円程度であることが分かります。
税理士への報酬は依頼内容や財産金額によって幅がありますが、贈与税申告を依頼する場合は5万円程度から、相続時精算課税制度の利用や節税に関しても相談したい場合は10万円以上という設定が多いようです。
生前贈与における税金と節税対策
相続税と贈与税を比較すると、贈与税のほうが税率は高くなっています。しかし単純な比較はできず、生前贈与したほうが結果として節税につながるケースも存在します。贈与税を減らす方法には、主に「相続時精算課税」と「配偶者控除」があります。
相続時精算課税
贈与税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類の方法があります。
暦年課税とは、基礎控除額110万円を超えた贈与は、その年ごとに贈与税が課税される制度です。ただし、贈与者が亡くなる前の7年間に受けた贈与財産は、たとえ基礎控除110万円以内でも相続財産に加算すること、という条件があります。
相続時精算課税は年間110万円の基礎控除に加えて、累計2,500万円までの贈与財産には贈与税が控除される制度。贈与者が亡くなったときには特別控除分を相続財産に加算して、相続税が計算されます。
相続時精算課税制度を選択できるのは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子や孫(養子を含む)への贈与で、届け出が必要です。一度でも相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税に戻すことはできません。
また、デメリットの項で先述したように、小規模宅地等の特例が利用できません。
相続時精算課税による控除2,500万円分は将来、相続財産に足し戻されるため、納税を先延ばししただけで一見メリットが少なそうに思えます。
しかし、贈与者が高齢などの理由で余命が短いと予想される場合は税金を抑えられる可能性があります。
暦年課税制度では、相続開始前7年以内の生前贈与分を相続財産に加算する必要がある一方、相続時精算課税制度ではその制約がないためです。
例えば、相続時精算課税を選んでちょうど7年後に贈与者が亡くなった場合、年間110万円×7年分の770万円分が基礎控除内に収まり、非課税となります。
さらに、将来値上がりが見込まれる不動産や株を持っている場合も、精算課税制度を利用して課税評価額が低いうちに贈与するのが有効であるといえます。
配偶者控除
「不動産の生前贈与をしたほうがよいケース」で触れたとおり、婚姻期間が20年以上の夫婦間であれば、住まいや住まい取得のための金銭贈与について、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円までが控除されます。2,110万円までが非課税となるため節税効果は大きくなりますが、申告が条件となっているため忘れずに行いましょう。
不動産を生前贈与するときの注意点とよくあるトラブル
生前贈与は上手に活用すればスムーズな財産継承に有効です。その一方で、思わぬトラブルを引き起こす可能性もあります。
よくあるトラブルやリスクには以下のようなものが考えられます。
納税資金が必要になる
贈与には贈与税のほか、不動産取得税や登録免許税がかかります。贈与される財産が不動産の場合は売却しないと現金化できないため、あらかじめ納税資金を準備しておく必要があります。贈与前におおよその納税額を確認しておきましょう。
分割贈与のリスク
不動産は所有権を分割して一部だけを贈与することも可能です。これにより贈与税の基礎控除110万円以内を少しずつ贈与することもできます。
しかし、不動産は高額のため、10年かけても非課税贈与できるのは1,100万円の持ち分のみです。贈与者が途中で亡くなるリスクもあるため、あまり年数をかけて分割贈与することはおすすめできません。
また、税務署から相続税対策の定期贈与が疑われる場合があります。1回ごとに独立した贈与であることを証明するために、贈与の時期や金額を毎年変える、毎回贈与契約書を作成するなどの対策を取りましょう。
贈与契約書の作成は親子間でも必要
贈与は口約束でも成立しますが、たとえ親子間であっても贈与契約書は作成しておきましょう。契約書によって贈与する側、もらう側の合意を明らかにしておくことで、相続時のトラブルや税務署からの指摘を防ぐことができます。
年間110万円を超える場合は確定申告が必要
贈与の金額が年間110万円を超える場合は、贈与した翌年の2月1日から3月15日までに所轄の税務署に確定申告をする必要があります。また、もし相続時精算課税制度の適用を受ける場合は、贈与の金額にかかわらず贈与税の申告を行わなければなりません。
生前贈与でよくあるトラブルと対策
不動産は現金と違って分割しづらく、価格が変動するという特徴があります。そのため、相続人が複数いる場合にトラブルが起こりがちです。
特に遺留分を侵害していないかに注意しましょう。遺留分とは法定相続人が最低限受け取ることができる財産の権利で、法定相続人とは配偶者と、第1順位が子ども、第2順位が直系尊属(父母・祖父母など)を指します。
贈与は家族や親族以外の誰にでもできるため、これを侵害すると遺留分侵害として請求されるケースも。遺産分割協議などを事前にし、相続人全員が納得するかたちで生前贈与を行いましょう。
家族内コミュニケーションと相続トラブル
相続トラブルのほとんどは親族間・家族間での話し合いが不足しており、不公平感が生まれてしまうために起こります。そのため、親族や家族で早めに話し合いつつ、専門家の力を借りて公正証書遺言を作成しておくのがおすすめです。
もちろん生前贈与により、財産の所有者が元気なうちに全員が納得いくかたちで財産を渡しておくことも有効な方法です。軽減措置などを利用して、なるべくおトクに資産承継を行いましょう。
まとめ
次代に財産を賢く引き継ぐためには、税制や登記について把握することはもちろん、将来にわたる長期的なビジョンが欠かせません。また、伴走してくれる専門家とのパートナーシップは築いておきたいものです。
「アパート専門メーカー」として、資産性の高い土地に自社一貫生産での高品質な建物を建てることにこだわるセレ コーポレーションでは、「アパート経営100年ドックVISION」を理念とする賃貸管理で建物の資産価値を守り、次世代へと引き継いでいく体制づくりを整えています。
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